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クラシック音楽では、通常、楽器の演奏についてはオリジナルの調を変えることはありません。しかし声楽においては、人間がすることですから、それぞれ出せる音域に違いがあります。

 

オペラの場合には、全体の調が決まっていてそれぞれの役割の声域にあった演奏家が割り当てられているので、オペラのアリアを歌う場合はオリジナルの調を変更することはありません。

 

例えばカルメンを男の歌手が歌うことはまずあり得ません。しかしオペラ以外の歌に関しては一人で歌うものですから、オリジナルの調性を自由に変えて良いということになっています。歌の調を高くしたり低くしたり変更すると、当然伴奏の方もそれに合わせて調を変えなければなりません。

 

クラシックの歌曲の楽譜は有名な曲に関しては、高声用、中声用、低声用、というように3種類の楽譜が出版されています。ところがこれでも間に合わない場合が多々あって、私の音大時代(今から50年ほど前)には、声楽科の伴奏を頼まれると通常の楽譜で間に合わない場合、伴奏の譜面を移調(調を高くしたり低くしたりすること)しなければなりません。

 

この場合、伴奏を頼む側の声楽科の学生が移調した譜面を作成する必要があります。ですが中にはこの歌を半音下げて弾いてください、などと気軽に言う人もいたりします。移調した楽譜を作成するのはなかなか大変な作業です。

 

それにその楽譜が間違いなくできているか心配もありますし、他人が手書きで作成した楽譜は見にくいことがあります。結局自分でやった方がいいか、ということになりますので、私は歌の伴奏はなるべく引き受けないことにしていました。

 

その後音大を卒業し、結婚した相手が英文科の出身で音楽を特にやっていた人ではありませんでした。最初ピアノを手ほどきしましたがすぐにフォーレのノクターンが弾きたいとか言い出しますので、貴女は声が大きいし英語やフランス語の発音がとてもうまいから、声楽を習ってみたらどうかしらと勧めたわけです。

 

それから私は妻の歌の専属伴奏者になりました。当然移調した楽譜を作成する必要が生じました。何かこの移調の作業を簡単にできる方法はないかしら、と考えていたところで出会ったのが、河合楽器製作所のスコアメーカーというソフトです。

 

このソフトの最大の特徴は市販の楽譜をスキャナーで読み取りそれをデータ化するところにあります。データ化された楽譜は一瞬にして移調することができます。音大時代にこのソフトがあったらどんなにか楽だったろうと考えたりします。全く便利な世の中になったものです。

 

ですが、楽譜に関して、音符のデータ化はまだまだ発展途上です。使っているうちに様々な問題に出会うことになりました。どのような問題が生じるのかは次回に書くことにします。

 

byすすむ