楽譜について

楽譜について

 楽譜は、五線と音符によって音の高さと長さが一気に示されます。また、小節線によって区切られていて、拍子も確実に示されます。楽譜はとても整然としていて、あいまいなところが少なく、いかにも西洋の方々が考え出されたすぐれたものだと感心します。

 

さて、同じ楽譜を使って演奏するのに、人によって演奏が違ってくるのはなぜでしょうか、というのがみのる君の質問でした。これに答えなければならないのですが、この質問は、実は音楽とはどういうものでしょうかと聞いているのに等しいのですね。とても、全部は答えられそうもありませんが、少し思いつくところを述べようかと思います。

 

音楽と楽譜との関係は、芝居と台本の関係に似ているかなと思います。台本に書かれた文字を正確に間違いなく読めたとしても、それだけでは芝居をする上では何の意味もありません。それと同じように楽譜に書かれた音を正確に間違いなく演奏することは、何の意味もありません。

 

演奏者は楽譜から音楽の内容を読み取り、これ以外にやりようはありませんという確信を持てるまで、自分の演奏をつきつめていかなければなりません。美しいと思うものが人によって違う以上、結果が違ってきて当然なのでしょうね。

 

それでは、楽譜の内容を読み取るというのは、どういうことなのでしょうか。実際の楽譜を見ながら、どのような読み方が可能か考えていこうと思います。まず最初の楽譜は、ショパンのノクターンの1番です。

 

ピアノ,楽譜

 

最初に右手だけで六つの音がならんでいます。

 

ピアノ,楽譜

 

これは弱起といって、まあ前置きみたいなものです。言葉に直すと、「あのー・・・今日は実は大切なお話が・・・・」というようなところでしょうか。ところが、この一言を発する前に、すでにいくばくかの沈黙の時が流れています。

 

これ以上は待たせられないという時にやっと出た言葉です。「あのー」といってからも次の言葉に行くまでには、心の葛藤があってなかなかスムーズにいきません。ですから、最初のシとドの間は普通よりも長くなります。

 

そして、少しずつ言葉は流れ出しますが、六つの音の最後の音のソのところでは、ついに本論にはいらなければならないということで、言葉は急にブレーキがかかって、遅くなります。

 

そして次の小節ではその遅くなった流れを引き継いで、本論が語られます。ショパンの出だしはいつも緊張感に満ちています。いつも押さえきれない気持ちを語り始めます。まず大切なことを告白するところから始まります。

 

2小節目のあと半分から3小節目を見ますと、11連符、22連符が並んでいます。

 

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こうなると何を言いたいのか相手にはよくわからないでしょうね。とても心が乱れています。絶対に11等分、22等分に弾くようなところではありません。そして、5小節目のラの音で、やっと普通の語り方ができるように落ち着きを取り戻します。

 

最初に「好きです。結婚してください。」と震えるように話して、それから、「今夜はお月様がとてもきれいですね。」というようにいつも順序が逆なんですよね。だから、結局結婚できずに、男装の麗人ジョルジュサンドと同棲することになったのでしょうか。

 

次に、6小節目と7小節目を見てください。

 

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後の半分にミーファミレという音があって、6小節目ではシのダブルフラットに行きますが、7小節目ではミーファミレミと行って次の小節でファにはいり、最初のテーマがまた出てきます。6小節目の音の流れは明るくうっとりとする感じですが、7小節目の方は、最後のレミのあたりで急速に心がしぼんで、現実にもどる感じがします。

 

当然、少しテンポは遅くなり、だんだん音は小さくなり、そして8小節目のファの音は優しく大切に置かれなければなりません。音符というのはひとつひとつが、人の心を反映したものなんですよね。

 

ですから、マニュアル通りにそつなくやっても、心がこもっていなければ、人の心を動かすことはできません。人は心から語るとき、言葉の流れの中に、抑揚や間といったものを自然に導入しているのだと思います。

 

音楽も本当に心の底からこみ上げてくる感動を託して演奏されなければならないのだと思います。

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