ショパンの理解が難しい楽譜

バラード第一番ト短調作品23

今回取り上げるのは、フィギュアスケートの浅田真央さんや羽生結弦選手が採用したことでも知られる、バラード第一番ト短調作品23 です。
序奏の後に続く第一のテーマです。

 

ショパン,Chopin,ショパンの楽譜

 

 

赤で囲んだ部分を見ると、最初の三つの音符には下向きにも棒が付いています。弾いた音を押さえたままで次の音を弾くように言っています。今弾いた音に心を残したまま、次の音を弾くように指示しています。

 

その心は、あっさりと次に進むのではなくて、過去を引きずって進んで欲しいと言っているのだと思います。人生相談なら変えられない過去にこだわるのはやめて今できることをやりましょう、とか言われるところでしょうが、でも過去のことに全くこだわらない人がいるでしょうか。

 

過去を引きずる心は人間として多くの人が共感できるのではないでしょうか。それがこの曲の人気の秘密かとも思うのです。

 

実際には、この場面はペダルを踏んでいるため、鍵盤を押さえていようがいまいが全部の音が響き続けるので、効果としては変わりはないのですが、それでも尚、ショパンは鍵盤を押さえたまま弾くように要求しています。

 

演奏者がショパンのその心を読み取って演奏することによって、演奏は全く違ったものになるはずです。ここがピアノの不思議なところです。
さてこの曲、同じページをもう少し進むと更に理解の難しい記譜が現れます。

 

ショパン,Chopin,ショパンの楽譜

 

ぽつんと一つ、中の白い音符が置かれています。これはただこの一カ所にのみこうなっているのです。もしタイムマシーンがあったらショパンに会ってこの音符の意味を聞いてみたいと思います。

 

「あっごめん、あそこだけ塗り忘れちゃった。」とでも言ってくれれば良いのですが、ショパンの性格からいって、そんなことはあり得ません。この白い音符には、ショパンの重大な意志が乗っているはずです。演奏者はこの音符に乗せられた意志を、言葉で説明できなくとも体感として理解する必要があります。

 

演奏者はこの音に特別な心理的な重みを感じなければなりません。楽譜を見ながらこの曲を聴いてみるのも面白いかと思います。

 

byすすむ