ピアノを弾く指の話
じっと手を見てみましょう。人差し指から小指までの4本は、大小、長短はあっても、大体同じ動きをしますが、親指だけは特殊な動き方です。お母さん、お兄さん、お姉さん、末っ子は動物園へ、だけど、お父さんだけはパチンコへ、というようなご家庭でしょうか。(笑)
人差し指以下4本の指は、根元が球関節といってあらゆる方向に動く関節で、あとの二つの関節は蝶つがい関節といって一方向にしか動きません。さて、親指はといいますと、たしかに二つの関節は蝶つがい関節ですが、親指全体は手首のところから動いていますよね。この関節は球関節ではなくて、鞍形の特殊な関節です。
この親指ですが、一家の大黒柱といいますか、大変重要な指で、外科医はまず親指から助けるのだそうです。親指ともう一本指があれば、かなりの仕事ができるのだそうです。 さて、ピアノを弾く場合にも、親指は大変重要な役割をになっています。
ところがです。これは断っておきますが、お宅のご家庭とは全く関係のないことですが、大抵の場合、これがほとんどダメ親父なわけで、ピアノをうまく弾きたいと思うなら、ぜひともこのダメ親父指をきたえ直さなければなりません。
あるピアニストがいうには、「親指のうまい人がピアノのうまい人である」のだそうです。親指は通常は他の4本の指の方に向かって動くことが中心で、ピアノを弾く動作は普段の生活ではあまり現れません。
しいて言えば、パソコンのスペースキーを打つ動作に近いでしょうか。しかし、この動作は手首を回すことによっても可能なので、手首を動かさずに親指だけを動かすことを練習する必要があります。
親指のことをドイツ語で「ダウメン」といいます。ドイツでのレッスンの時、私の演奏中に先生が「ダウメーン!」と叫びました。私は一瞬「駄目!」といわれたのかとヒヤッとしましたが、親指に意識を集中したところ、なんとなくうまくいくということがありました。
親指は重さが乗りやすいため、音はたやすく出るのですが、案外動きが悪いものなのです。よく気をつけないと、さぼっていて、他の指の迷惑になっていることがよくあります。 ところで、話はかわりますが、どうして小指は小さくできているのでしょうか?
小指がもう少し太くて長かったら、ピアノの演奏はもっと楽になるはずです。もし、テレビでピアニストの演奏を見る機会があったら、その手の形に注目してみてください。必ず小指側の手のひらが普通の人より肉厚になっていますよ。
どんな美人ピアニストでも手はゴツイです。間違いありません。 昔、ブゾーニという大ピアニストがいましたが、この人は机の上に置いた角砂糖を小指でパーンとたたいて割ったそうです。
一説には、ミュンヘンの女流ピアニスト、ローズル シュミットもそれができたということです。(これは、シュミットのお弟子さんのドイツ人から聞いたはなしです。)そういえば、最近、角砂糖というものをみかけませんね、あれはどこへ行ってしまったのでしょうか。
昔はどこのご家庭にもありましたが・・・・。私たちピアノ科の学生は、その話を聞くと、当然、全員、角砂糖を持ってきて力比べをしたものです。ところが、角砂糖というものは、小指だろうが親指だろうが、たたいて割れるようなものではありません。
しまいには、かなづちを持ってきて、どこまでやったら割れるのか実験したものです。その結果、とても小指で角砂糖を割るというのは信じられないという結論に達しました。
もしかしたら、ヨーロッパの角砂糖はやわらかかったのでしょうか。小指は、ピアノの演奏では、小さい割には強い音を弾くことが多く、逆に大きい親指はむしろ繊細な作業を要求されます。
byすすむ